喧騒という文化

 新型コロナのまん延により、都会から喧騒が消えました。
 人の流れは、都市にとっては血流であり、喧騒の活気は都市の健康を意味していたと、いえるかもしれません。
 さらに人々を運ぶ鉄道により、血のめぐりは格段と良くなり、都市はますます活気を呈していきます。元気になっていきます。

 地下鉄は1927年、上野から浅草間で開通しました。昭和2年のお話です。当時の人々の活気は、白黒写真ですが残っています。
 開通時の浅草駅。まるで年末のアメ横のようです。

 実は、開通当時の白黒写真をカラー化する仕事がありました。
 最近は、AIが自動でカラー化するので、本当に大丈夫ですか?と念を押しての受注です。

 開通当時の地下鉄浅草駅入り口。日本初の地下鉄が上野~浅草間で営業を開始した=1927(昭和2)年12月30日 

 さっそくカラー化してみると、喧騒がよりリアルに響いて耳に入ってきたような気がします。そして、この装飾。私の生まれたころの昭和40年代でも、結構このような看板がありました。

 開通当時の地下鉄上野駅ホーム。日本初の地下鉄が上野~浅草間で営業を開始した=1927(昭和2)年12月30日

 結論からすると、手作業でやる意味はまだまだある、と確認できました。
 AIは、膨大なカラー写真をコンピューターに覚えこませて、一番の頻度の高い配色を導き出します。しかし、実際はすべてのことが多数決にはならないのです。
 例えば、車掌が来ている制服は、今では驚きの水色でした。こういうデザインというものは、統計学では導き出せません。

 そして、素材が大分、手を加えないといけない状態も、AIには限界があります。上の写真は、奥の人の遠近感がおかしい。きっと合成しているのでしょう。
 それを整えてから、着色をするのですから、いわば絵を描いているのと似たような感じになります。

 開通当時の地下鉄上野駅ホーム。日本初の地下鉄が上野~浅草間で営業を開始した=1927(昭和2)年12月30日

 皆さん、もしかしてこれらの写真を見たことはありませんか?
 実は、12月26日から東京メトロの車両のモニターに映し出されているはずです。

内容は、
「Time Train~東京の地下で、時間の旅がはじまる~」

東京の発展、文化の拡がりを支えてきた地下鉄事業の歴史を共同通信イメージズに貯蔵するアーカイブ画像から紐解いていく企画で、第1回は地下鉄発祥の地ともいえる浅草画像を掲載しています。

企画:一般社団法人共同通信社/株式会社共同通信イメージズ
協力:株式会社メトロアドエージェンシー

 1月15日まで車内で放映されているそうなので、見た方、感想をお聞かせいただけると嬉しいです。(1月いっぱい放映の可能性もあります)

とどけ未来日本人へ

 暮れも押し迫った12月27日、大阪府の公立小中学校の美術教師を対象に、デジタル復元の作品3点を ”賞道的に” 鑑賞していただきました。忙しくせわしない年の瀬に、20名近くの先生にお越しいただき、熱気むんむんの鑑賞会になりました。

 体験していただいたのは、「鳥獣戯画」「高松塚古墳」「日月山水図屏風」。賞道を体験していただいた方にはお分かりいただけると思いますが、なんとも《ぜいたく》かつ《もったいない》とも言える、濃縮の講演です。

 最初は、正直、反応はいまいちに感じられました。そこで私はしきりにうなずいて下さる先生に話しかけるようにして進めました。考えてみれば、普段から生徒を前に饒舌に語って指導している皆様、いくら私が人前に話すことに慣れているとしてもプロの皆様は容易になびくはずはありません。

 でも、いざ体験の段階になると、反応はがらりとかわりました。やはり、賞道の醍醐味は体感するほかにありません。
 高松塚古墳に身を横たえる。ある一人の女性と視線を合わせる…。
 自然と質問が出てきます。
受講者A「死んだ方は、実際には目を合わすことはないですよね、死んでますから」
小林「はい。でもポイントは、この絵を描かせた人の想いです。どうしてこの女性は死者を見下ろしているのでしょう。そのように描かせたのでしょう」
 それを説明するために、もっと時間が必要なのです。だから《もったいない》。

  日月山水図の迫力ある画面。なんと、山と山の間から顔を出す日輪の下に、寝そべる人が!
小林「先生!さすがです!賞道の鑑賞法をすでに実践されていますね!」
受講者B「はい、この部分が山越阿弥陀になっていることを聞き、実際の(寝床で阿弥陀仏に迎えられる)状況を試してみました」
小林「実は、山越阿弥陀図屏風もデジタル復元してあって、本当の体験ができますよ」
受講者B「ええ~、それは体験したい!」
 はい、賞道に参加いただければ、より深い鑑賞の世界へ浸れます。ですから、これで終わりだと《もったいない》。

 正直、学校の先生という方々は、新しいものに積極的ではない場合も多いことは覚悟しておりました。しかし、美術の先生はやはり感覚が柔軟なのでしょうね、ほとんどの方がすんなりと新しい鑑賞法の面白さを理解し、堪能されていました。
 その体験を授業に生かし、未来の日本をしょって立つ学生たちに、「生きた日本美術」を伝えていってもらえたらうれしいです。

びっくり展開の講演、結果、大盛況でした

 9月19日に開かれた久しぶりの講演会のお題は「日月山水図屏風 ”循環”の神秘」、会場は、その至宝がある河内長野市の市民交流センターKICCSでした。 今回の大きな目的のひとつは、新しく制作したデジタル原色復元「日月山水図屏風」のお披露目でした。あれ、日月山水図なら、すでにあるはず、私は原色体験をもうしている、と思われる方も多いと思います。そうです、それはそれでありますが、前作はいわば大道具的なもの。今回は、卓越した美術印刷で知られているサンエムカラーの技術協力のもと、完全なる美術品として作成されました。なので、近くで見ても本当の絵のようで、しかも「カサネグラフィカ」という技術を駆使して、岩絵具のテクスチャーも再現、まるで本物のようなオーラをまとっています。

 前日、屏風を確認し梱包に立ち合いました。これで一安心。当日、サンエムカラー関係者が届けてくれることになっています。 コロナの影響による久しぶりの講演なので、わくわくの中にも緊張している私でした。でも、新作の復元「日月山水図」をご覧になれば、その作品の迫力で見る人を惹きつけられるに違いありません。

 さて翌日、会場に着いて、慌ただしく準備にかかります。パソコンをつないで、動作を確認し、そして屏風を荷解きして、まだ中身は見せたくないので、閉じたまま立てかけておきます。 でも開いた時に上下が反対ではいけません、中身を開いてみました。

「ええ!」

 背筋が凍りました。 全く違う絵が目の前にありました。頭が真っ白になりました。 後から分かったのですが、サンエムカラーから、同じタイミングで別の屏風も発送の手配がされ、どうやらそれと取り違えたようなのです。なんということでしょう…。

 もう到底間に合いません。腹をくくります。もう、自分の持っているありったけのサービス精神で、語り尽くすしかありません。 予定になかったエピソードを組み入れ、商売道具の美術年表を無料で配布、身振りも大きめに話し続けました。

 あっという間の90分。どっと疲れました。マスクもしてましたのでもう酸欠状態。長距離を走ってきた感じで、息が上がってました。
 その場での質疑応答では、誰もいなかったので、一生懸命が伝わらなかったか、と残念な気持ちになりましたが、終わってから何人か熱心に質問して下さる方がいて、確実に伝わっていたようでホッとしました。
 おおむね感想も好評のようでした。

 それで結局、屏風は後日約2週間、同じKICCSの3階ロビーに展示されることになり、かえってじっくりゆっくり鑑賞いただけることになりました。
 災い転じて福となす、とはこういうことかもしれません。

【新着】賞道、念願の京都で開催

 京都で「賞道」を開催することは、長年の夢でした。というのも、日本の伝統文化における中心地はやはり、京の都であり、「もともとの環境で鑑賞する」ことが重要である「賞道」にとって、日本中世の雰囲気を残している京の都で、復元アートを鑑賞することは重要、と思っていたからです。

 今回挑戦したのは、「鳥獣戯画 甲巻」。
 こうしてまったく新しい作品に挑戦したのは、実に久しぶりなことでした。
 4月から、コロナの影響で延期されていた「鳥獣戯画展」が、いよいよ東京国立博物館で開催されるのを前に、大いにその秘密に迫っていこう、というものです。

 もう一つ目的がありました。コロナ禍の中で、賞道を開催するために、場内での参加者を5名だけに制限、後の方々は、ツイキャス(課金制の動画配信サイト)で、ネット動画鑑賞をしていただく、と言ったような、新しい体制で開催し、その成果を確かめたかったのでした。

 来場していただいた方には、マスクはもちろん、入場の際に手を消毒して、そして座席は離して座っていただきました。
 そして、後ろからカメラ撮影、映像はzoomを通して東京へ送られ、東京・経堂の「さばのゆ」の須田さんに、事前にお渡ししている京都会場と同じスライドを話に合わせてミックスしていただきながら、ツイキャスで配信するという……
 いやぁ、すごい時代になりました!

 お話のポイントは、今の鳥獣戯画は、順番が間違っていたり、失われた場面があったり、違う話が紛れ込んでいたり、と、本当の姿を留めていないこと。
 さらに、話の長さは、今、甲巻として伝わっている長さの半分、つまり、甲巻はお話が二つ混ざっていて、それを分解すると、いわば「ショートフィルム」的な、いやもっと短い4コマ漫画風な感じなる、という解説をしました。

 来ていただいた方々には、私解釈の新構成「鳥獣戯画 甲巻1」をプレゼント。私の見立てでは、あと甲巻は、2と3もあると思います。
 今度はそれを作成して、「3部作」として、発表する場を設けたいと思っております。

 最後になりましたが、この会場は将来「西陣織アートミュージアム」へとなる、一室です。格天井や、数寄屋造りの屋根などもあって、なかなか素敵な構造をしているスペースです。
 私は、このスペースを運営する組織のコーディネートの仕事をしているのですが、この「西陣織アートミュージアム」につきましても、おいおいご説明したいと思っております。

奥河内音絵巻の圧巻

2018年に国宝に指定されたばかりの「日月山水図屏風」は、河内長野の天野山金剛寺に所蔵されています。私が、この屏風を取り上げ、復元したのは10年も前、まだ重要文化財のときでした。

WOWOW「美術のゲノム 五ノ巻 ~描かれた移ろう時の秘密~」(2011年)の収録風景

それからのご縁がなぜか続いて、昨年音楽家サキタハヂメさんと出会い、大きな展開を遂げます。
今年の 9月12日(土)、13日(日)に行われた「奥河内音絵巻2020」。私にとって実に刺激的な二日間でした。コロナの影響で、3密を避けなければならない悪条件を逆手にとって、とんでもない演出がなされていました。

まずは、密を避けるために、1回公演のお客様を100名様を50名様ずつの2組に分けます。
開演前にお集まりになったお客様が50名 (A組)になった段階で、サキタさんと私が登場、歓迎のご挨拶と日月山水図世界(私の復元した、キラキラ山水の世界)へ旅立つ前の楽しむアドバイスを丁々発止楽しく致しました。
それが終わると、A組は早速鑑賞の旅へ。そのころには後のB組も集まっていますので、もう一度サキタさんと私のご案内が始まります。

つまり、会場内の広さを配慮して、来場者を半分に分け、時間をずらして距離を保ちながら鑑賞していくというわけです。

そして、A組はまず小ホールに入ります。そこにはまず、”光の切り絵師”酒井敦美さんの手掛けた色彩世界が広がります。

まるで、昔話の世界に飛び込んだような空間が広がります。
そこで、ゆらめく水面の飛び込んだり、惚けて山並みを眺めたり…。そうなのです、これが日月山水図の楽しみ方なのです。

そしていよいよ大ホールへと進みます。
なんとこの「奥河内音絵2020」は、イベントホール全体をめぐる、体験型美術展になっているのです。自分の追い求めていた美術展が、こんな形で実現するとは、感激です。

お客様は、大ホールに入っている、という感覚はありません。というのも、暗い道を案内されて出てくるところは客席ではなく、舞台だからです。
そこには、同じく酒井さんの光の切り絵の世界、四季の豊かな色彩と美しい花々が咲き乱れています。

と、その時、サキタさんが指揮するオーケストラの音楽が突然鳴り響き、おもむろに舞台の幕が開き始めます。
登場するのは、観客席。
そこに大きな大きな影絵を投射するので、立体感が増幅され、また、天井も限りなく広く高くなっているので、太陽も月も、本当に眺めているような感覚になります。
(そのような中で、私のデジタル復元「日月山水図屏風」がシンボリックに使われています)

そしてフィナーレに向けて、松は踊り、大地は揺らぎ…。

https://www.youtube.com/watch?v=lP22NF7Kk88

そして、その神々しいお姿に、度肝を抜かれ…。
https://www.youtube.com/watch?v=SAmoDczbkw0&t=35s

ここでは、本当の迫力の100分の1も伝えられていませんが、実は、まだこの迫力を体験していただく機会があります。
今回のイベントが大好評につき、来年の1月16日(土)、17日(日)の二日間、なんと本物を所蔵する天野山金剛寺にて、「金剛寺音絵巻」と題してイベントが開催されます。

この記事を読んで、体感したい!と思った方、ぜひ、金剛寺へお越しください!

日月四季山水図の波動

正に波動なのである。絵柄もそうだが、この作品に関わってからと言うもの、ご縁の波動が止まらない。人を動かさないではいられないうねりが、ご縁となって数珠つなぎとなっている。

このイベントも、ホントそんな感じであれよあれよと流されて、サキタハヂメさんのところに流れ着いた。もともとは、mbsの村田元さんのご縁で関西の情報番組「ちちんぷいぷい」で賞道が紹介されたのがきっかけ。同じ「ちちんぷいぷい」の番組内で、賞道の後にサキタハヂメさんが登場したのだが、そうだとしても、2人が結びつくはずもなかった。たまたま、復元した例として日月山水図屏風がスタジオモニターに小さく表示(画面右上)され、サキタさんが毎年開いていた「奥河内音絵巻」のテーマで今度は日月山水図屏風を取り上げようとしていたため、その偶然に驚いて飛びついてくれたのだ。

こんなご縁てあるだろうか。今年の「奥河内音絵巻vol.6」は国宝「日月四季山水図屏風」(最近は四季がつくらしい)の絵の中に入り込む、幻想的なイベント。光切り絵作家の酒井敦美さんが、所蔵する金剛寺のお膝元、河内長野のラブリーホールを煌めく幻想の世界へ誘うという。で、私の「原色復元・日月四季山水図屏風」は、印象的な場所に、会のシンボルとして使われる…はず。

日にちは9月12日(土)と13(日)の2日間。音楽や踊りもあるイベントなのだが、展覧会のように、会場をゆったりとめぐる構成になっており、いつ訪れても大丈夫。(そのプレイベントとして、「国宝(日月四季山水図)をべたべた触ろう!」が、8月23日(日)に開催されます。小学生とその親対象で先着50名。もちろん、べたべた触る前にはしっかりとコロナ対策を行い、万全を期します。立ったり座ったり巡ったり。主に視線でべたべた触るという感じです。こちらにも是非お越し下さい!)

いやあ、ホントに凄いご縁の波動。実は、これくらいのご縁がもっとあって、それはそれで凄いことになりそうなのだか、うまく結実としてもかなり先の話。成功が見えてきたら、ご披露しようと思う。


【緊急寄稿】昔の対処法に学ぶ

 新型コロナウィルスの蔓延で、世界中が大変なことになっている。毎日の行動が制限され、店頭からはトイレットペーパーや備蓄品が消え、株価が暴落…。私たちの世代では今まで体験したことのない事態に、世界が不安な毎日を過ごしている。
 それでも情報化社会である。原因は新型コロナウィルスと判明し、刻々とその広がりがニュースで流れ、その対策が打ち出され、なんとか対処しようとしている。ワケが分かっているのとそうでないのとでは、心の持ちよう、覚悟が違ってくる。それだけでもいい方に考えたい。

 昔は、ウィルスなどと言う存在は知られるはずもなく、ワケも分からず疫病に倒れ、死んでいくことに、なんらかの理由を求めた。それが前回の絵巻物「祇園御霊会」でご紹介した通り、「荒ぶる神様がお怒りになっている」ということなのである。その神のお気持ちを鎮めるために、舞などを奉納する祭りを敢行する。科学的ではないが、精神衛生上では、立派な対処法である。祭りによって生きる力を復活させ、困難な現状に立ち向かい対処しているのだ。
 ちなみに、その対処法が科学的に正しいかどうかの話ではない。未知の災難に対して、どう気持ちを鼓舞して戦い続けるか、あるいは希望を捨てずに生き続けるか、精神衛生上の話である

 このように疫病というものは昔の人にとってはより厄介なもので、目の前に起こっている余りにも厳しい現実をどうにかして理解しようとしていた。それが絵物語のようになったとして、今の私たちがどうして笑い飛ばすことができるだろう。

 いい作例がある。「辟邪絵(へきじゃえ)」と言う。まるでウルトラマンの怪獣図鑑のように、グロテスクな伝説のキャラクターが紹介されている絵巻物である。このキャラクターは、どれも正義の味方である。ご覧いただいているのは、「天刑星(てんけいせい)、疫鬼を食らう」という題名。
 天刑星は、紫微斗数(しびとすう)という中国の星を使った占いに登場し、孤独を象徴するとされる一方で、医学も司るとされている。

 善神の天刑星は、人々を疫病で苦しめている牛頭天王(ごずてんのう)をむんずとつかんで食らおうとしている。宙ぶらりんとなっているのが牛頭天王である。この牛頭天王が実は祇園祭での主役、夏になると今日の人々を苦しめている疫病の張本人なのである。

 牛頭天王の分かりにくい顔を復元してみた。なんとも情けない顔が出てきた。疫病が、徹底的にこらしめられている様子を、私たちはばかばかしい絵空事のように見るだろうか。当時の人々の、疫病をやっつけたい気持ちは、今正に私たちの心情である。

 その後、牛頭天王は、不思議な展開を遂げる。疫病をもたらす厄介者だった牛頭天王が、なぜかいい神として人々の信仰を集め、大きく浸透していったのである。その発展の中で、牛頭天王は素戔嗚尊(すさのおのみこと)と同一視され、さらに発展していく。
 疫病がついに人々を支配してしまったということだろうか。そんなことが、あってはならない、と、今はそれだけ祈るばかりである。

エンタメ性高し!

少し前のことになってしまいますが、MBS一階ロビーにありますちゃやまちプラザにて、「水曜トークショー」をして参りました。日ごろは真面目なお話をしておりますが(かと言って、時に笑いもある楽しい内容です)、今回は特に「日本美術はエンターテインメントになるか」を目標に、思いっきり楽しんでいただくことに集中しました。

会場の様子。ぺちゃくちゃとトークするので、くちびるのソファです。

内容は、山越阿弥陀図屏風と地獄草紙を組み合わせて、「極楽から地獄へ一気にめぐってみよう」というもの。でも実際は、初め地獄草紙を紹介して山越阿弥陀を鑑賞し、また地獄へ落ちていただくという、ジェットコースターでも味わえない急展開の90分なのでした。

そもそもこのトークショーにお誘い下さったのが、MBSのムラゲン(村田元)さんで、この時の聞き手もして下さいました。聞き手というよりも、もう漫才の相方ですね。なじみのない世界のお話なのに、ぐいぐい食い込んできて、巧みに来てる方へ分かるようなトスを上げる。で、そのボールを皆さんが気持ちよく受け取ろうとする寸前で、私がスパイクする。で、笑いが起こる。

左がムラゲンさん。ラジオのパーソナリティもやってしまう、MB Sの顔です。

見返り阿弥陀のお話をしているときに、とっさにタクシーの運転手が浮かんだのは、ムラゲンさんとのこのような丁々発止があったからこそ。あ〜、今思い出しても笑っていまいます。詳しい内容は、昨日MBSの水曜トークショーサイトhttps://www.mbs.jp/plaza/talkshow/index.shtml
にアップされました、「過去のトークショー配信」からどうぞ。

地獄は地獄草紙。最後に、地獄へ引き摺り込む仕掛けをご披露。

やはり日本美術はエンタメになり得ます。不完全な人間が、一所懸命やってできたものですから、そこには人情があったり、突っ込みどころあったりするわけです。干からびた残骸を大切に崇めていてばかりでは、作品は語ってきてくれません。作品に宿る人間味を、これからも掘り起こして、皆さまに紹介して参ります。

おお、阿弥陀さまが、やってくる!

もう次回の企画も始動します。内容は、まだ内緒です。でも、面白くないわけがない!季節ごとにできるといいですね、どうぞお楽しみに。

笑い声の絶えない会場。ライブでもあり、サロンでもあり。

子供も楽しめる日本美術

賞道の可能性のひとつとして、子供への美術教育の新しいスタイルを提供できることが挙げられます。その部分に特化したものとして、分かりやすいタイトル「国宝をべたべたさわろう!」として、昨年から展開してきました。(このタイトルは、それ以前から使ってましたが)

第2回目の「国宝をべたべたさわろう!」は、中央区立泰明小学校にて行われました。銀座にあるとても有名な小学校で、100組近い小学生と親のご参加と、子供スタッフ20名、大学生のアルバイト、そしてもちろん私とキッズMのメンバーで、総勢200名を近い人数が会場の体育館に来場し、大いに賑わいました。

しっかし、この風景はすごい。銀座にある泰明小学校、講堂のそで裏にある物置部屋から。でも、一歩校庭に入るとそこは確かに小学校。でも、見上げると大都会。でもでも…。そこには空間の歪みがあって、くらくらします。

当日は、NHKと産経新聞からの取材、そして中央区区議会議員の佐藤先生もお越しになり、賞道の注目度が上がっていることを確信しました。中央区教育委員会に後援していただくこと自体が、その可能性について、何か実感を持って伝わっていっている手応えがあります。やはり、賞道には、何かあります。

NHKは実は海外放送向けのコンテンツとして配信されました。
以下のURLで英語ではありますが、後ろから日本語が聞こえますので、だいたいの内容はお分かりいただけるかと思います。
(1か月くらいの範囲でご覧いただけるそうです)
https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/news/videos/20191206180552314/

今回は各作品の鑑賞を子供スタッフにお願いして、私はバックアップに努めました。最初はうまくいくか心配でしたが、最高でした。親子、というのがポイントでした。というのも、多少たどたどしい説明も、子を持つ親は応援の気持ちもあって、真剣にかつ暖かく見守ってくれたのです。これはやってみないと分からないことでした。

もちろんこのコンテンツ自体が、子供から大人まで楽しめるということがあってのこと。紙や絹や劣化しやすい素材の多い日本美術は、海外比べて触れて楽しむ鑑賞「ハンズオン展示」が立ち遅れていることが問題になってますが、正にその解答を示す「賞道」、その有効性とエンタメ性を確認する絶好の機会となりました。

八幡、博多、大盛況でした

毎年恒例になりました八幡(北九州)と博多での「知れば知るほど面白い 日本美術の秘密」は、このタイトルを掲げて4回目を迎えました。題材は、二年前からその体感が話題になって、奈良でも好評を博した「高松塚古墳壁画」です。令和の時代を迎え万葉の時代が注目されておりますが、正にその文化そのものの飛鳥美人ですから、グッドタイミングなのです。

今回は、私の個人的な感想として、面白いことがありました。八幡と博多で逆転現象が起こっていたのです。

今回のチラシ、ポスターのデザイン。いつもかっこよくしていただいて感激です。

初めは「賞道ってなに?小林ってだれ?」ということで、思いっきり疑心と不安しかなかったところで、八幡の方々はそれこそ私にも作品にも恐る恐るという感じでした。一方博多では、そこは観山荘というブランドとお酒もいただきながらの極上のお食事付きですから、距離感が違うのです。

なので、初回の印象は八幡が「ちょっと戸惑い」があって、博多は「気持ちよく知的好奇心が満たされた」感があったのでした。

今回も八幡の会場は永明寺。やっぱり荘厳な雰囲気と日本美術はマッチします。(今回は単なる黒い大きな箱ですけど…)

で、今回はどうだったか。4回ともなると、私がどんな語り口でどんな世界に誘うか知ってますから、来る方も準備ができています。八幡の方々は、私がちょっとややこしい話をしても、その雰囲気を楽しんで下さいます。なので今回は万葉集の歌も持ち出して、多重的に飛鳥時代を楽しんでいただきました。初回の戸惑いから、4回目にして自分から積極的に賞道の世界に入ってくるようになって下さいました。

こんな感じで、リラックスした雰囲気で楽しんでもらえる環境が整ってきました。

一方の博多は観山荘で豪華なお食事も大いに楽しんでいただきますし、今回は作品にお一人お一人横になって体感していただきますから、なかなか多重的に深いお話する時間がございません。そこで、お食事中に皆さんが入れ替わり立ち替わりいらして、古墳体験をしていただくときに、それぞれに軽いエピソードを繰り返しお話しして雰囲気を楽しんで頂くことに徹底しました。

どうですか、この雰囲気。これで美味しいお料理をいただくわけですから、お勉強とはなりません。

初めはどちらかというと、伝えることをシンプルにしていたのが八幡の方だったのですが、今回は、博多の方がシンプルになってきた、ということなのでした。もちろん伝えるポイントは、どちらも外しません。どちらも楽しい「賞道」です。伝える側も臨機応変な対応が求められる、だから「道」なのですなぁ。

いつも体感していただく時は、「いってらっしゃ〜い!」と送り出します。