心をカラーにするということ

心をカラーにするということ

カラーライズ(白黒写真のカラー化)が新しい局面を迎えています。
これまでも自動でカラー化する企業が話題になり、マスコミにも取り上げられました。その企業は、「独自に開発したプログラムにより、白黒を自動でカラー化」というもの。
正直、私を含め他の専門家も、そのお話には疑問を抱いておりました。「白黒には微妙に色の要素が残っていて……」というような発言があったのですが、私は「そんなことはない、白黒には色の要素はない」という見解だったからです。

しかし、ついにカラーライズの自動化に納得のいく理屈で、その自動変換のプログラムが公開されました。
早稲田大学の研究成果として、しかも無料です。これは脅威です。
http://colorize.dev.kaisou.misosi.ru/
で、気軽に白黒写真がカラー化できます。こちらはそのプログラムを手軽に使えるように、白黒写真を選択すればカラーをアウトプットしてくれるというものです。
公開されたからには、商売敵とはいえ、こんな便利なものもありますと紹介しないといけません。悔しいですが。

人工知能が、たくさんの白黒写真と想定されるカラーの画像を覚え、無数の形と色のパターンから、色を自動的に選択しているのだそうで、「なるほど、その手があったか」というほどの明快さです。

そんなプログラムが公開される前(少なくとも私が知る前)、受注したものがあります。
ある一家の家族写真です。個人の方からご依頼をいただきました。
何という大家族でしょう。21人もいます。
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中央にお年寄りの女性がふたりいて、その周りを囲むように幼児をふくめた若い世代がかこんでいます。
戦後間もない雰囲気があります。
左上の男性など帽子を斜めにきどってかぶり、闇市を取り仕切るあんちゃん的な恰好です。

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まず苦労をしたのは、ノイズの除去です。
紙の切れた部分をつなぎ合わせた跡を消すのは、比較的たやすいのですが、ご覧のようなデジタル的なノイズが写真の下全体に広がっており、その除去に大変苦労しました。
もちろん、一つ一つ丁寧に消していきます。

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やっと、白黒の全体が整いました。
このときは非常に色々な業務が立て込んでいて、ここに至るまで2か月が経ってしまいました。
いよいよ着色です。
背景は比較的簡単です。素材も見た目でわかりますので、ここまでは順調に進みます。

何といっても、腕の見せ所は肌色です。
肌のグラデーション、そして、ほんのちょっとだけ、分からないくらいの淡いピンクをふわっとさします。
これは、今の集合写真でもよほど解像度の高いもの以外は見えませんから、写真的というよりかは、絵画的かもしれません。
でも、こうすると、本当に写真に血が通うのです。人としてのストーリーを語り始めるのです。
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さて、こういう時代にも、おしゃれに気を使う人、そうでない人の差がでるのが、面白いですね。
いや、明らかに金銭的に豊かな人、おしゃれはしたいけど子育てで手一杯の人、はなから関心のない人など、人の気持ちが恰好に出ているか、興味は尽きません。
そんなそれぞれの人の気持ちも想像しながら、着色を進めます。
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左の少女のところで、手が止まりました。
この子は、今でも通用する美人だな、と思って止まったのではなく、おそらく祖母であろう女性の肩に、そっと手をのせているのを発見したからです。
こういうちょっとした心のかよっていた証拠を見ると、感動します。
そして、カラーにすることで、その温かい気持ちをより確固たるものにする作業が、私は大好きなのです。

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やっと出来上がりました。
それぞれが何色を着ていたかは、大体の時代考証はしながらも、全体的なバランスも考えて配色することも心がけました。
どうせなら、見た目も華やかで、きれいな方がいいではないですか。
そういう意味でも、さらに絵画的要素もあるのかもしれません。

世の中が進んで、白黒写真も自動でできるのが現実的になったとき、とにかく複雑なノイズを丁寧にとるとか、登場人物の心までも想像しながら色をさすことでしか、私は勝負できなくなっているのかもしれません。
でも、特に大切にしたいかけがえのない写真の場合には、あえてお金を出してでも「心のある絵画のような写真」を作ってほしい、というニーズがあると信じ、これからも頑張って依頼者の気持ちにお応えしたいと思っております。

最後に、あの自動でカラーにするプログラムが、この写真をカラー化したのが以下の写真。
ああ、ちょっと安心しました。まだ、写真に写った人の心まで、色彩にはできてないようです。
colorized