奈良、初賞道はしっとりと

奈良、初賞道はしっとりと

満開を迎えた奈良の「第35回ひむろしらゆきサロン」にて、お話をして参りました。





「ひむろしらゆきサロン」は、奈良の氷室神社で主に毎月1日に行われる「氷献灯」の際に開かれ、桜の季節には山村流の日本舞踊も奉納されます。
私も絵馬に「賞道が広まりますように」と書き、その上に中までくり抜いた一辺15cmくらいの立方体の氷を置いて、火をつけたロウソクを中にそっと置きます。
その後、宮司さんが祝詞をあげて下さいます。
氷の中でゆらゆらと光る柔らかい灯り。初めは表面に霜がついて曇って見えますが、もっとすると透明になるそうです。





さて、いよいよ講演です。関西で、しかも日本文化の礎を築いた古都にて、新しい賞道がどれほど人々に響くのか、いつもとは違う緊張感に包まれます。
今回は、賞道のご紹介もあって、三つのパートに分けて広く浅くの初級編。





まずは奈良の地元のこともありましたので、「東大寺大仏殿」当初の極彩色世界を紹介しながら、「昔はどんなに派手だったか」のお話です。
次に「平治物語絵巻 六波羅合戦巻」で、そのレプリカに触っていただき、「触って楽しむのが日本美術」と言う体感をしていただきました。
最後に北九州、博多で開催して間がない幸運もあって、「花下遊楽図屏風」を持ち込むことができました。そして、それを電灯のついた真っ白な状態と、ロウソクの灯りで柔らかく赤く染まった状態を比較していただきながら、絵の中に広がる花の宴の世界に浸っていただきました。つまり「暗い中でこそ美しい日本美術」と締めくくったのでした。





最後のロウソクの灯りは、氷室神社の燭台をお借りしたのですが、さすがに雰囲気いいですね。
高さもいつもより高いので、画中の人々の顔よりも、桜に光が当たります。まるで夜桜を見ているようで、夢心地になってしまうほどです。





みなさんやはり驚かれていました。
「目からウロコをでした」
と言う、いつものキャッチコピーの言葉もいただきましたし、
「文化財の修復や復元に、新たな選択肢」
と、鑑賞の先を見通されてのご感想もいただきました。





ホント来なければわからない。
来れば、物の見方がちょっと変わる。
それは、日本文化を毎日直に触れている奈良の方々にも、感じていただけました。




大盛況のうちに終わりつつ、そのまま山村若女さん、山村若瑞さんによる日本舞踊が奉納されました。
舞うお姿を見た瞬間、「あ、動く屏風だ」と思いました。深い理由はなく、ただそう思ったのです。
ひとつひとつの姿が、絵になっている……。
揺らめく灯りの中で、動きの中に絵を見るのと、絵の中に動きを見るのと、なんと似ていることか!





舞の後、山村若女さんとお話ができ、
「見ている方と、いっしょに世界を作っていく」
とおっしゃっていたことにはびっくり。
正に賞道と同じ。伝統芸能で毎日精進されている方と、毎日パソコンで過去の絵師の話を紡ぐ私が同じ見方感じ方をするのとに、この上ない感動を覚えます。そしてそこに日本文化の真髄があると確信します。
すっかり気持ちが通じ合って、何かご一緒に致しましょう、ってほどの盛り上がりに。きっと何か企画します。お楽しみに。





心の中も春風が通ったような爽やかに気持ちになりました。
ふと見ると境内を後にするころでも氷献灯の氷は、しっかりと溶けずにありました。
そしてガラスのように透明になって、改めて日本人の灯りに対する想いの深さを教えてくれていました。