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磑(うす)でゴリゴリされるという地獄


地獄草紙は平安末期に制作された絵巻物で、その名の通り、獄卒(ごくそつ)という鬼たちが、地獄に落ちた罪人たちを懲らしめる様子が描かれています。
この地獄草紙は八場面の地獄で構成されていますが、この「鉄磑処(てつがいしょ)」は四番目にあります。四人の獄卒が罪人たちを大きな鉄の「磑(うす)」でゴリゴリと、罪人たちの体を砕き、バラバラになった体の血を洗い流している場面が描かれています。

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怖くなくなった? いやいや。


長年、開いたり巻いたりを繰り返したために、数え切れないシワが走り、また絵具が剥落してしまい全体が見にくく、ぼやっとした画面になっています。それが却って「おどろおどろしい」雰囲気を醸し出していました。
しかし、画像処理によってシワを取り除くと画面がはっきりとしてきて……。さらに失われた色彩をデジタル復元すると、極彩色の獄卒たちが生まれ、すっかりと「おどろおどろしい」雰囲気がなくなってしまったのです。
これでは、「怖い」という地獄絵図の効果が半減してしまうのですが、当時の人々がどのような環境で鑑賞していたかによって、その問題は解決します。

03鉄復ロウソク
夜の暗闇の中、ロウソク一本の灯りを頼りに鑑賞する……。すると、背景の闇と現実の闇が溶け合い、極彩色の獄卒が浮かび上がってくる!
つまりこの極彩色は、闇に溶けないために必要だったのです。

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特に和蝋燭は、炎が大きく揺らめくときがあります。その揺らめきによって、獄卒の目が光ったり、罪人たちが苦しみにうごめいて見えます。
平安貴族たちは、最高の「平安ホラームービー」を、じつは体感していたのです。

平安の絵師と昭和の絵師の橋渡し


平成27年11月30日、水木しげるさんが亡くなりました。
今から27年も前、実はこの極彩色の「鉄磑処」を携えて、水木先生のアトリエに取材しに行ったことがあります。かつてNHKで放送されていた美術番組「国宝探訪」の取材です。
水木先生の反応は、驚くものでした。
ぐぐぐーと身を乗り出し、感心しきりな様子なのです。私はすっかりうれしくなってしまいました。「自分の技術が認められた!」と錯覚したのです。
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「この筋肉の描き方、見事。平安の絵師から、背中をバーンと叩かれたようだ」
という言葉に、私は、はっとしました。
先生は、私の技術を褒めて下さったわけではありませんでした。
平安の絵師の技術に舌を巻いたわけで、「昭和の絵師(水木先生はご自分をそう言いました)は、まだまだ」と実に謙虚なお気持ちを吐露されたのです。
しかし私にとってこの言葉は、「デジタル復元は、いとも簡単に時を飛び越えられる画期的な技術」ということを確信させてくれ、そのお言葉は今も私の心に刻まれています。
水木先生、本当にありがとうございました。