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 「地獄草紙」ははじめからラインナップに入っている、「賞道」定番の作品です。
私もこの作品を解説するのは、回数から言うと一番多いのではないでしょうか。それほど、テッパンのコンテンツです。




 なのに、いわば「賞道」を深く理解している方々を前に、なぜ鑑賞したかもしれない作品を改めて紹介したかというと、新しい場面が追加され、そのお陰で絵巻物の性格がガラリと変わったからです。





 追加されたのは「銅釜処(どうふしょ)」。この部分だけボストン美術館に所蔵されています。
 罪人たちが大きな釜に入れられて、獄卒という地獄の住人にいたぶられています。大きな箸で、かき回されているという場面です。
 なんと言ってもこの場面の主役・獄卒の色をどうするか、が一番の問題でした。ほとんど、直接色は判断できません。でも、鼻の脇に緑らしき顔料のあとが見つかりました。さて、はたしてこの程度で、緑と判断していいか……。





といいながら、緑でぬることはあまり躊躇しませんでした。すでに「鉄鎧処(てつがいしょ)」経験ずみだったからです。立っている獄卒ももともとはほとんど顔料が剥落し、白い状態だったのですがある専門家が、全体のバランスから言うと五行の色世界のうち緑が足りない、と指摘され、後年実際に本物を見てみると鼻の脇とあご下に緑の顔料が残っていたのです。
 つまりは、鉄鎧処の獄卒と似たような状態で現代に伝わっているのです。そういう意味でも、この銅釜処はもともとこの地獄草紙に入っていたことは間違いありません。





 どうでしょう、よみがえった銅釜処。緑の獄卒が、実にユーモラスです。
 さて、この地獄を絵巻に戻すわけですが、順番はどうしましょう。もとになったとされる経典にのっとって、今回各地獄をばらばらにし、その経典に登場する順序にしたがって並べ替えてみました。
 すると、面白いことに気づいたのです。
 はじめもともとは後ろの方にあった「黒雲沙(こくうんさ)」という地獄が頭にきます。そしてその次に、現状トップにある「屎糞処(しふんしょ)」に、これも後ろの方にあった「膿血処(のうけつしょ)」と続きます。実はこの三点、みな遠景の風景、割と遠くから引いて見ている描写です。

 次に出るのが「銅釜処」。ここで、どーんと獄卒が登場です。そういう意味で緑は非常にインパクトがあります。
 そして、「鉄鎧処」「函量処(かんりょうしょ)」「鶏地獄(とりじごく)」とキャラの立ったド派手な地獄が続くのです。

 つまりは、カメラがどんどんズームインして、見る人を地獄に引きずり下ろすような構成になっていたわけです。
 実に考えられているな~ と改めて感心させられました。やっぱりやればやるほど、真実は立ち現れてくる。これぞ「賞道」の醍醐味です。





 そんな平安ひとの視線に気づかされた今回、平成びとの視線も負けていません。
 なんと、地獄草紙を立てて、後ろからロウソクライトを照らしていました。デジタルのレプリカなのでその程度の扱いはOKですし、LEDライトなので燃えないので安心。そうすると、尚さら獄卒たちが生き生きとみえるのです。目などは本当に光っているわけですから、本当にリアルです。




 現代ならではの、しかし「攻めて鑑賞する」という意味では、伝統的な鑑賞といえるでしょう。あれ、もしかして平安びとも危険を冒してここまでやっていた? だんだんと、やっていたような気もしてまいりました。
 「賞道」のこころは、確実に広まっているようで、本当に嬉しく思いました。私も勉強させていただいております。